「父・こんなこと」読了
- 作者: 幸田文
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1967/01
- メディア: 文庫
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「父」と「こんなこと」の2編からなる。
「父」の方は、幸田露伴の病床での娘と孫の看病記。
あまりにリアル過ぎて、思わず目をそむけたくなるような文章。
でも、父娘の絆の強さを感じました。
「こんなこと」の方は、生前の父娘のエピソードを綴ったもの。
こちらは心なごむ文章。
父(幸田露伴)が、娘(幸田文)にはたきの使い方を教えるという場面で、
「いいか、おれがやって見せるから見ていなさい。」房のさきは的確に障子の桟に触れて、軽快なリズミカルな音を立てた。何十年も前にしたであろう修練は、さすがであった。技法と道理の正しさは、まっ直に心に通じる大道であった。かなわなかった。感情の反撥はくすぶっていたが、従順ならざるを得ない。しかし、私の手に移るとはたきは障子の桟に触れずに、紙にさわった。房のさきを使いたいと思うと力が余って、ぴしりぴしりという鋭敏過ぎる破壊的な音を立てる。わが手ながら勘の悪さにむしゃくしゃするところを、父は「お嬢さん痛いよう」とからかい、紙が泣いていると云った。
このくだりがとても好きです。
父娘の仲の良さ、信頼関係、父の茶目っ気など、よく分かります。